ある人にさよならを告げた。
ちょ、ちょっと待ってと言ったきり、無言になる目の前の人。
あぁ、この人のこの顔を見ると、いつも心が揺れる。だから、目を閉じていた。
しばらく黙っていたが、静かに話し始めた彼。
いつもの元気な感じではなく、初めて聞く、訥々としたしゃべり方。
私をまっすぐ見て話す。時々腕組みしながら。
時々宙を仰ぎ、考えるようにしながら。
私の思っていたのとは違う考えを聞いた時、私は泣いた。
自分が浅はかだった。
浴衣を着て出かける約束は実現されなかった。
当然だと、そしてこれからも、ずっと何かに縛られた、悲しい結末だけを考えていた。
この人は、私の、みんなの幸せを考えてくれていた。彼なりに。
最後までその人の器の大きさに包まれていた。
そしていつもの調子に戻り
「蕎麦食いに行こうぜ」
そんなふうに笑った。