私が、近所の公園デビューをして、近所の子たちを可愛がったのは、今では、情が移ったせいかもしれないけど、最初は、長男に少しでも味方ができるように、と思ってのことだった。
学校に行ってしまえば、何が起こっても、私は何もしてやれない。
だから、「あの、お世話になってる母ちゃんの子だから、仲良くしてやろう」的なことを期待していた私であった。
長男は、話すのが苦手で、しかも、忘れっぽいところがあるのか、学校であったことを家に帰って来てからほとんど話さない。
しかし、ある時、思い出したように、こう言った。
ー帰り道で、殴られるんだよね・・
えっ、誰に殴られるの?と聞くと、同じクラスのA君だという。
私が、あまり会ったことのない子だ。
みんながいる時はしないが、2人きりになると、黙ってお腹を殴るのだという。それで、走って逃げて来るのだそうだ。
腹が立った。殴る理由はわかる。理由はあってないようなものだ。仲良くないから、あまり話さないフレンドリーじゃない、変わったやつだから殴るのだ。
ほかに理由があるなら聞きたいと思った。その子の家に乗り込んで、話を聞くことも考えたが、近いうちに二者面談があったので、先生にまず相談してみようかと思った。
先生に話をしてみると、A君に確かめてみるとのこと。
ー先生、そのことでますます長男をいじめることがあったら、親が許さないって、すごい剣幕だって伝えて下さい、とお願いして学校を後にした。怒りと、話した時の緊張で心臓がドキドキしていた。
その後、A君が長男を殴ることはなくなった。
やっぱりその子に会って話した方が良かったかな、とも思ったが、次に何かされたら命がけで会おう、と思った。本当に心配で、具合が悪くなりそうだった。
長男にこのことを話すと、「でも、先生に話さなくても良かったよ」と言った。
えっ? 「自分で解決する。」・・・。
強くなったなぁ、と思った。
怖いことだらけで、帰り道、一人で走って帰って来るのを、実は私は何度も見ているのだ。学校でも、今までも、上手くいかないこと、思い通りにならないこともたくさんあっただろう。理不尽にバカにされたり、殴られたことも、なぜか仲間に入れず、寂しかったこともあっただろう。
でも、それらに負けずにそんなことを言ってくれて、嬉しかった。
それから、別の二者面談では、先生から、体育の授業でクラスメイトに暴言を吐かれ、泣いたという話を聞いた。
バレーボールをしていて、上手くレシーブができず、同じチームだった男の子に「死ね!」とか「消えろ!」とか言われたらしい。授業後もずっと泣いていたので、先生も気づいたという。
そんなことがあったのか・・と長男に聞いてみると、
「でも、その後、俺、けっこう練習したんだよ。そしたら、うまくなった。」と何事もなかったかのように言った。
悔しくて練習したんだ・・偉かったなぁ。。
そんな話を聞いてから、私は、あまり心配するのをやめよう、と思った。
心配する顔を見せるより、笑って前を見て、励まそうと思った。
そうなれたのは、長男が私にその勇気をくれたからである。子供の力を信じようと、今もずっと思っている。
※長男が通っていた療育の教室では、気持ちの表現ができるよう、練習することがあった。特に思春期前に、人にいじめられたりして、つらくなった気持ちを親などに話すことは、大事だと言われた。それだけ、自分の気持ちを人に話すということが、本当は大変なことなのかもしれない。