私は、5月の晴れた日に、いつも、ふるさとにお墓参りに行く。
その人との思い出の季節に、車を走らせる。誰にも知られることなく。
あの日、私は、何の心の準備もしていなかった。
兄のように慕っていたその人を、どうしてか受け入れてしまった。本当は、前からそうしたかったのかもしれない。でも、ずっと理性の方が勝ってたということか。
ずっと信頼して尊敬してきた人。嫌いなわけない。
怖がったり、恥ずかしがったりする私を、その人は、やさしく愛してくれた。時々、気が遠くなりながらその人を見つめていたら、照れたように見つめ返してくれた。
自分の素直でない心が、彼のおかげで、少しずつ浄化されるような気がした。
その人が言った最後の言葉は深く心に残っている。
「お前は、強く生きろよ」
もっといろいろ話したかった。
昔の上司としてでいいから。
たった2年で、その人は遠くに行ってしまった。
自分の死期を知っていたのだと、あとで理解した。だから、あの日私を呼んだのかもしれない。
泣いた。誰にも見られないように。
退職祝いの包みには、小さなイヤリングが入っていた。無骨な彼。どうやって買ったのだろう。想像できない。
もし、彼が生きていたら、ふざけて聞いてみたかった。
黙って笑うだけだろうなぁ。
人生にこけそうになったら、どうか私を助けてね。笑
そうならないように、強く生きるよ。
今日、二男が無事中学に入学したよ。季節は確実にめぐってるね。
ありがとう。忘れないよ。
あなたのやさしさ。あなたに教わったこと。
あなたという人を。