この話はフィクションと思って下さい。
友達の母親が亡くなり、四十九日も過ぎた。
彼は、母一人子一人の家庭だったため、一人で法事の手配をし、一人で金銭面の工面もしたという。まだまだ、片づけることはあるが、やっと一息ついたというので、お見舞いと、お線香をあげに伺った。
初めて入る家。忙しかっただろうに、きれいに片付いていた。
「俺の部屋は散らかってるんだけどね。」
すぐ帰るからと言ったのだが、お線香をあげていたら、お茶を出してくれたので、せっかくなので頂くことにした。
「少し痩せた・・?」と聞くと、
「いんや、でも、忙しくて食えないこともあったかな」
「・・大変?」
「まぁ、でも、会社休んでたから、葬式もごく内輪でやったし」
「・・・」
「ありがとう。お袋も、一人くらい、会社以外で女性が来たと思って喜んでるよ」
「・・・」
「君に会いたがってたんだ。ただの友達だって言ってたんだけど、母親の勘てやつが働いたのかな」
「・・・」静かに話す彼。
沈黙がちになる私。
「黒、似合うな」
「・・あなたも、意外とね」
初めて笑う彼。私は、今日は喪服、彼も黒っぽいスーツを着ていた。
「ちょっと、俺お腹すいたんだ。何か食べに行こうぜ」
そういって、彼は、近所のお食事処に私を連れて行った。お座敷に座り、二人で早い昼食をとった。
彼は、いつものようにお喋りではなかった。でも、沈黙を気にしていないようだった。今から自分のお墓を買い、お母さんに先に入ってもらうんだ、などと話をする以外は、だまって食べていた。きっと疲れているんだろう。
二人で静かに定食を食べた。
食べ終わると、私は「今日はごちそうさせて」と言って支払いをすませた。彼はばつが悪そうに、でも「ありがとう」と笑った。
私はそれで帰ろうと思ったのだが、彼は、家に頂き物のお菓子がたくさんあるから、持って行って、と言う。玄関先にいると、奥から、「どれがいい?」と声がする。
しかたないので、靴を脱ぎ、再度上がった。
「俺一人なのに、こんなに食べきれないよ」
菓子折りをいくつか袋に入れてもらった。そして、帰ろうとして背を向けたとき、後ろから抱きしめられた。私は、後ろから来られると怖い。一瞬動けなくなった。
気が付くとだっこされて、そのまま横にさせられた。
「お母さんの前でやめて・・」そういうのが精いっぱいだった。怖くて体に力が入らない。
すると、彼はきつく抱きしめていた手を緩めて、
「少しだけでいいから、こうしていて」と私の髪をなでた。
寂しそうな顔に、私は何も言えなかった。
もう、友達にはなれないのかな、、そればかり思っていた。一生のうちで一人でいいから、親友がほしかったのに。。
私の願いは叶わないのかな・・
じゃあ、彼の願いは、これで叶うんだろうか・・
こんな状態で?
「ねぇ、もう一度話をしよう?」
無意識に私はそう言っていた。彼はじっと私を見たが、あきらめたように「わかった」と手を放してくれた。
ほっとした。 なぜか彼のお母さんに、再び手を合わせていた。
それを見て、彼が思わず吹き出した。
「はは。。かなわねーなーもう」
いつもの明るい彼の声に、私は心から安堵した。