口紅はおろか、リップもつけない。一度ファンデーションを塗ったら、一日そのまま。最近は仕事で腕を露出しているが、日焼け止めもろくろく塗らないので、汚いくらいに焼けている。
そんないい歳をしてズボラな私に、友人が口紅を突然くれた。
女性らしいものをプレゼントされると、昔からなんだか恥ずかしくなる。薄いピンクの口紅。オレンジ系しか持っていなかった私に、「絶対こっちのほうがいいって」と言って渡された。
それから「古い浴衣があるんだけど、いらないか?」という。もう捨てるからよかったらもらってほしいという。
ちょうど、風情ある温泉に行ったばかりで、「ゆかた、いいなぁ」と思った。
いいのだろうか?と思いつつ、いただけることになった。どんなゆかりのある浴衣なのか聞いてみたが、お茶を濁すばかりで教えてくれない。
「それ着てどこか行こう?」
・・・。
「どこか遠くの町とか」
「半日でいいから」
「ただ歩いているだけでいいから」
返事し難く、だまっていると、友人が「そんな顔して見つめないでよ」と笑った。
この人とはもう、終わりに近づいているのかもしれない。友人以外に存続できない私たち。私も最近心が揺らぐことがあるのだ。
胸の奥がつかえるようにぎゅーっとなった。
切ないと、世間では言うらしい。こんな気持ちを。