今は落ち着いて来たので、どうでもよくなりつつあるのだが、5月にお弁当の配達ルートが変わり、大きな病院の担当になりたてだった頃は、それまでとは勝手が違い、悩みに悩んだ。
それまでとの大きな違いは、同業者が他に2社入り、その日のメニューによって部署毎に注文数が違う、ということ。これはなかなかシビアである。
前にその病院担当だった女性は、1名のコロナ重症患者が入院したため、感染の危険があるということで、御主人の反対を理由に、会社を急に辞めてしまったのだが、なかなか人当たりのいい、感じの良い人だった。
その方が辞めた時、「田中さん、その病院担当引き受けてみる?」と言われたのだが、ずっと建物の中で、看護師さんはじめ気を遣うことが多いと思い、「今までのルートが慣れていて良いです」とやんわり断っていたのだ。
さくらんぼの季節にはさくらんぼ農家からの注文が殺到し、長期の休みには学童の注文が10件ほど増え、大変だけれど、青空の下走る田舎のルートがいいと思っていた。
しかし、4月にそのルートで居眠り運転、事故を起こしてしまったこと、つなぎのために病院に配達に行った人が、いまひとつ愛想がないと評判が悪かったことなどから、行かされることになった。クビにならなかっただけ良いとして、気が進まないながらも、人込みの中に配達に行くようになった。
他社のメニューや注文数を横目で見ながら配達していると、最近うちのお弁当が他2社に押されていることに嫌でも気が付いた。
うちはどちらかというと老舗であり、本社から送られて来るメニューを採用することがほとんどで、あまり変わったもの、挑戦的なメニューはない。よって同じ様なもののローテーションが多い。
他2社は、自由にメニューを開発している感じがあり、タイ料理のナントカ、沖縄料理のナントカ、など目新しいものも頻繁にあり、メインが2種類あったり、量もボリューミーだったりして、私もこっちのお弁当の方が食べたいな、と思うようなことが多かった。
私は以前洋食店に勤めていたこともあり、お客様の満足度をいつも気にしていたから、余計にそういうところは気になり、
最初から「これは、今日はメニューで負けたな」とガッカリしながら配達することも出てきたので、ここはここで大変だな、と思った。
うちにはうちの良さがあり、美味しいとは思うのだが、少しマンネリ気味、お客様は同じ値段なら、ぱっと見て「食べたい」方、そして少しでもお得感の感じられる方を選ぶのは当然なのだ。
何が功を奏するかわからないが、配達者は配達だけすればよい、ではなく、少しずつ事務所で栄養士さんと話をする機会があれば、メニューのことも話すようにし始めている。今のところ、この間のチャプチェを試食したら美味しかったとか、私も真似して作ってみましたとか。あのメニュー人気ありましたとか。
厨房の調理師さんとも、料理の話をすることがあまりなかったけれども、「誰々さんが何系の味付けをしている」と聞けば、世間話がてら、ちょこちょこ話かけるようになった。
それから、毎日、他社のメニューもメモして、自分のバインダーに挟んでおくようにした。こうすると、誰の目にもつき、参考になる。
この業界は、値段が安く、それだけでも充分サービスになっているという自負があるのではないかな、と思うことがよくあった。
なので、もう少しお客様の目にふれるところで、「ありがとうございます」の感謝の言葉を増やしたり、毎日同じような味噌汁をつけるのではなく、たまには変化をつけるとか、やれることはあるのではないかと思った。
それから、万が一の異物混入の際、以前から謝罪の仕方がどうも足りない気がしていた。
これは顧客を失う大きな理由の一つであり、責任者が出向いて謝ってもおかしくない。電話一本で謝り、その代金を返却さえすればいいとは思えない。お客様は、不快なダメージを受けた上、一食満足に食べられず、補食のために貴重な休憩時間を失ったかもしれないのだ。後々の仕事にも響くだろう。
会社の指示がなくとも、これはそう感じたのなら、自分で動くべきだろうな。
ちょっとした粗品と、謝罪のメモ、次回の食券も1枚くらいしのばせて、頭を下げて謝らなければ。
それから、担当者が変わったという名義で、何かキャンペーンのようなものをしようと考えた。
担当者が変わると、それまで義理もあって注文下さっていた方が、「これを機に〇〇ランチさんに変えてみようかな」と思うこともあるかもしれない。
新しい担当者と親しくなる前に、変えるなら今かなと。
普通に配達だけしていたら、私自身にも勝ち目はなく、これは営業マンとしてのやる気を見せなければならない。
たかがランチ、されどランチ、意外に皆さん、食事を楽しみにしていらっしゃる。そりゃそうか。
ある看護師さんも「ここでは、食べることだけが楽しみでねー」とおっしゃっていた。
なので、時々お弁当におまけのコーヒーポーションをつけたり、いろいろ自分の采配でやってみることにした。
七夕には、川柳を作って、面白おかしくカードを添えたり。
こういうのは、すべっちゃダメで、自信がないならやらない方がいい。
こんなことをしていたら、少しずつ顔を覚えてもらえ、
「○○さん、最近サービスいいんじゃないですか?大丈夫ですか?」
「あのスープ美味しかったですね」
などと声をかけてくださる方もいたり、
「キャンペーン期間ということで、会社から予算が少しもらえたんです」
ということにして・・😉
それから、こんな懸賞ものの企画とか。
このころ、「どうも田中が○○病院で勝手にキャンペーンらしきものをやっている」
と会社の耳に入ったようで。
まぁ、ちょっと注意されました。
担当者が変わった時に、そういうサービスが無くなった時に、苦情が来たら困るから、ということもありますし。
それは、みんな承知の上ですが。
上司との関係が悪くなかったので、そんなにきつくは言われなかったですけど、
「うーん、やめたほうがいい。」
とはっきりキッパリ言われました。
「そんなこと、今までもした人いないし、まして自腹でなんて」
それも想定内だったので、短期間でもやることが目的だったわけで。
でもそこは、
「もし、評判がよければ、こんなことしています、とご相談するつもりだったのですが・・・」
と、前置きした上で、
「では、もう告知してしまった分だけ、やったら終了しますので、それだけ許していただけませんか?」
それは何とかOKをいただき、7月いっぱいのキャンペーンということにしたわけです。
後々わかったことですが、栄養士さんのお母様が、その病院で働いてらっしゃったとのことで、ありゃー、そりゃ筒抜けだわ、と苦笑いものでした。
まぁ、今も、仲良くなったお客様には、たまーに内緒でサービスすることもありますが。そのくらいはいいんじゃないですか笑
怒られたらやめればいいんですから。
人生は短いですよ😌